▼書籍のご案内-序文

[症例から学ぶ]中医針灸治療

出版にあたって

 中医学は中華民族の至宝であり,広くかつ深い,悠久の歴史がある。中医教育は,数千年の時代の移り変わりを経て,新中国が成立してからは,新しい中医教育体制が確立され,絶えず完全であるように求められてきているので,いよいよ目をみはるような光を放っている。しかしながら,今日の中医教育は,講義内容や方法など多くの面で,時代の要求に合わなくなっている。なかでも,理論教育と臨床の現場とがかみ合わなくなっている点は,特に問題となっている。講義の質を高め,実践教育の環を強化し,理論と臨床現場との連係を促進し,中医教育における症例不足の現状を改善する必要がある。そこで湖南省中医薬学校を筆頭に,山東・安徽・江西・重慶・黒龍江・陝西・湖北・四川・河南など10カ所の全国重点中等中医薬学校および国家中医薬管理局中等中医薬学校からなる連合組織が,国家中医薬管理局科学教育部の関係指導部門と湖南中医学院および湖南科学技術出版社の協力を得て,この中医教育のための症例集を編纂することになったのである。
 症例研究というのは,間接的な臨床実践として,学習者が他人の診療経験をくみ取るのに役立つだけでなく,さらに重要なことは,学習者の臨床における弁証思考能力を培えるということである。本シリーズの症例は,おもに編者と関連する学校の附属医院の長年の臨床症例資料および出版物から選んできたものである。教育上の必要性から,症例の編纂は,中医の教育的特色を考慮し,書式を統一し,特に「考察」を加え,病因病機・疾病の診断および治療のみならず,さらに入念な分析を行い,学習者が書物の知識からの理解を深めることができるようにし,臨床の分析と問題解決の能力を高めることができるようにしてある。本書の症例内容は要点が簡潔で,書式も要領を得ており,実践教育を強化することと,中医理論と臨床実践との結びつきを促進することを目的としている。しかしながら,臨床の正式なカルテとしての書式に依拠してはいない。本書では,名老中医の症例を一部抜粋してあるが,これは,学習者が過去の簡潔な中医症例のなかから,名老中医の臨床経験の緻密な要点を直接くみ取ってもらいたいからである。ここに記載された症例の原作者に対して,心から感謝の意を表明したい。教育上の便宜のために,本書の病症名は原則的に教科書と一致させてあり,また同時に,現在普及が推進されている「中医臨床診療述語」ともできるかぎり統一するように考慮している。
 本シリーズは,中医類書部門の一連の学習指導資料であり,『中医基礎学教学症例精選』『中医内科学教学症例精選』『中医外科学教学症例精選』『中医傷科学教学症例精選』『中医婦人科学教学症例精選』『中医小児科学教学症例精選』『中医五官科学教学症例精選』『中医針灸学教学症例精選』『中医推拿学教学症例精選』の合計9冊からなっている。各書はそれぞれ1~2カ所の学校が中心になって編纂されており,編纂者はいずれも各校の教育現場における第一線の熟練教師があたっており,教育および臨床において豊富な経験をもっている。期間中に何度も稿を改め,できるだけ体裁を整え,内容を正確にし,文字を簡明にし,実際の臨床に合致しているように努めた。
 中医教学症例シリーズを編纂するということは,創造的な仕事であり,中医教育の質と量の充実をはかるうえで一定の役割を果たすであろう。しかしながら,教材をうまく組み合わせて教育のための補助資料として作り上げることは,長期にわたる非常に骨の折れる仕事である。われわれは全国の各中医学院や大学の幅広い教師や学生および本シリーズのすべての読者に対して,貴重な意見を寄せてくれるように心から期待する。そうすればわれわれの仕事の内容はいっそう改善され,中医教育事業にとってもさらに早くまた建設的に貢献することができるであろう。

「中医教学症例叢書」編集委員会
2000年3月


はじめに

  『中医針灸学教学症例精選』は,「中医教学症例叢書」の1つであり,中医の専門分野である針灸学が対応する各種疾病について,針灸学の臨床教育の特徴を考慮して,相応の症例を編纂したものである。針灸学の理論教育と臨床の現場との協調を促すことを目的とし,針灸学の教育上の重要な参考書籍として実用に供しようとするものである。
 症例は全部で127例。針灸が対応する臨床診療範囲が広く,また疾病の種類が多いという特徴から,内科疾病・婦人科疾病・小児科疾病・外科疾病・五官科〔鼻・眼・口唇・舌・耳の5つの器官〕疾病・急症の6種に分類した。その内容は,感冒・中暑・肺咳・哮病・アク逆・胃カン痛・嘔吐・腹痛・泄瀉・痢疾・便秘・脱肛・脇痛・胸痺・心動悸・不眠・癲病・癇病・リュウ閉〔排尿障害〕・遺精・頭痛・眩暈・中風・面風痛・痺病・痿病・腰痛・痛経〔月経痛〕・閉経〔無月経〕・崩漏・帯下・胎位不正・産後腹痛・欠乳・陰挺〔子宮脱〕・不妊・百日咳・疳病・小児驚風・嬰幼児腹瀉・サ腮〔流行性耳下腺炎〕・乳癰・乳癖・エイ気・痔病・腸癰・捻挫・風疹・円形脱毛症・乾癬・天行赤眼〔急性結膜炎〕・針眼〔麦粒腫〕・近視・暴盲〔突然視力が低下,失明する病症〕・聾唖・膿耳〔化膿性中耳炎〕・鼻淵〔副鼻腔炎〕・乳蛾〔扁桃炎〕・喉イン〔喉頭部疾患による失声〕・高熱・痙病・厥病〔突然失神する病症〕・脱病〔陰陽気血の消耗する危急の病症〕など63種類に及んでいる。
 本書の症例は,「臨床資料」と「考察」の2つの部分からなる。「臨床資料」は,患者の経歴・主訴・経過・検査・診断・治法・取穴・操作の順になっており,臨床の操作部分に重点が置かれている。「考察」は,病因・病機・診断・治法・処方解釈の面から,臨床資料に対して,1つ1つ分析を行っており,針灸処方用穴の理論的分析に重点を置いている。これによって,学習者が針灸学の理論に対して理解を深めることができるだけでなく,臨床分析と問題解決の能力を高めて,針灸学の理論的知識と実際の臨床とを結びつけて考えることができるようになる。また,本書ではできるだけ現在の中医針灸科の臨床で使われている用語と検査単位を用いており,学習者が理論的知識と臨床の実際をすみやかに結びつけられるように配慮している。
 本書は,分担して編纂し,全体で持ち寄ってつき合わせるという形で完成した。内科疾病部分は邵湘寧,徐偉輝,婦人科疾病部分は張志忠,小児科疾病部分および急症部分は陳善鑑,外科疾病部分は金暁東,五官科疾病部分は陳美仁がそれぞれ編纂した。編纂過程で,「中医教学病案叢書」編集委員会・湖南省中医薬学校・山東省中医薬学校・湖南科学技術出版社の関係専門家と指導部門の協力と支持を得ることができた。ここに謹んで心から感謝の意を表す。
 中医針灸学教学症例の編集は,今日なお検討段階にあり,編者の経験も不足しており,レベルにも限界がある。本書のなかにも欠点があるかもしれないが,同業の諸氏および読者の方々の貴重なご意見を提出していただいて,再版の折にはさらに完全なものにしたい所存である。

編者
2000年3月